粉飾決算に巻き込まれる
粉飾決算や不正取引に経理担当者として巻き込まれそうになった、または巻き込まれたので転職したいという場合があります。上司の指示で粉飾決算に繋がる計上を指示されたり、営業部門の不正取引を知ってしまったものの経営陣に是正する気がなかったりする場合です。
東京商工リサーチによれば、不正による業績に影響がでた(でる)ことを2013年度に開示した上場企業は38社です。
2013年度(2013年4月~2014年3月)に「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た、あるいは今後影響が出る可能性を開示した上場企業は38社だった。2012年度(27社)と比べ1.4倍増で、2007年度に調査を開始以来、最多を記録した。
出所:東京商工リサーチ
リンク http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20140430_01.html
上の数字は開示されたものですから、重要なものまたは社外に知れるところとなったものに限られます。実際はもっと多いと察せられます。
孤軍奮闘は難しい
不正を知ったらどうするか?もちろん、不正をただすべく関係者や経営陣に働きかけるのが正論です。しかし、企業全体が不正を容認する空気になっていれば、あなた一人の力で不正をただしていくことは現実的には不可能であることが多いでしょう。入社間もなければ一層、困難を伴います。逆に、不正をただそうとするあなたが誤っているかのような錯覚をおこしてしまう恐れすらあります。
このような状況は、ポーランド出身の米国の心理学者アッシュ(1907~1996)が1951年に紹介した「同調」に関する実験以来、広く知られています。明らかに誤っていると考えられる集団規範であっても、個人が集団規範に抗することは困難であり、個人がこの誤った規範に同調してしまうというものです。
公益通報者保護法(平成十六年六月十八日法律第百二十二号)に基づく手段も考えれますが容易ではありません。事件が収拾するまで閑職に追いやられることが必至です。
不正を予防する、不正をただす、これが経理の本来の役割です。しかしながら不正に巻き込まれないための現実的な選択肢として、転職を決断する経理の方がいらっしゃるのも事実です。
不正の転職理由に思わぬマイナス評価
それでは、このような状況で転職活動を行うことになってしまった場合、面接で転職理由を聞かれたら「現勤務先が粉飾決算を行なっているから」と応えて良いものでしょうか。
とりわけ中途採用で入社間もなくこのような状況に陥った場合、「短期の転職となったのは私が原因ではない。入社した企業が不正を行っていたからだ」と自らの短期転職を正当化したくなる気持ちはもっともです。
転職理由は具体的に話さなければ説得性がなく評価されません。ところが不正について詳しく話すと、面接官はあなたを企業秘密を口外する極めて危険な人物と評価する恐れがあります。
例えば面接を受ける企業が現勤務先の競合である場合、その情報を業界関係者に流布する危険があります。そのような危険を配慮せず自らの転職のために口外するあなたに警戒感をいだきます。
また面接を受ける企業の従業員が偶然、現勤務先従業員の知己である可能性も想定できます。一見、つながりがなさそうであってもかつての同級生なのかもしれません。あなたの口外を現勤務先が知るところとなれば、転職先が決まる前に退職に追い込まれるかもしれません。守秘義務違反による解雇の可能性も否定できません。
それでは、詳しい内容を話さずに単に不正がありましたと言えば良いのでしょうか。
今度は話に具体性がなくなります。転職理由の信憑性を疑われます。
もしくは、第三者に話す位だから左程重要ではないことだろうと思われるかもしれません。それなのに転職をするというのだから細かいことに固執する融通の効かない堅物に違いないと思われてしまう恐れがあります。
日常生活で例えれば、歩行者の信号無視は立派な道路交通法違反ですが、現実には注意されることはあっても罰金を課されることはありません。黙認されているのが実状です。
歩行者の信号無視程度の違反に必要以上に目くじらを立てる融通の効かない堅物、面倒な人材と思われるかもしれません。(念のためですが、歩行者は信号無視をしても良いと言っているわけではありません。)
転職理由は?の問いに不正と応えるのは得策ではありません。
不正や粉飾決算への関与を回避するために転職をする場合、どのように応えれば良いのでしょうか。
原因が本当の転職理由
不正や粉飾決算の原因があなたの転職理由です。不正や粉飾決算は結果です。
そもそも不正や粉飾決算を行おうとする動機はなにか。殆どの場合は、ノルマ、業績や決算のためです。もとを質せば、業績悪化や経営悪化を隠すために不正を行っているのです。
業績悪化や経営悪化を軸に転職理由を準備しておきましょう。
まとめ
- 不正内容を詳しく説明すると安易に企業秘密を口外する人物と評される
- 詳しく説明しないと信憑性が薄れる、細かいことに必要以上にこだわる堅物と思われることも
- 業績悪化や経営危機が原因なら、それが転職理由
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