国税庁が「国税庁レポート2013」というものを発行していることを初めて知りました。経理や税務に携わる人は、読むと勉強になります。国税庁の方々も努力なさっているということが伝わってきます。

国税庁レポート2013

国税庁レポートの6ページ行動規範には、

職務上知り得た秘密を守るとともに、綱紀を厳正に保持する。

と書かれています。

なるほど、当然ですね。
しかし、いまだに分からないことがあります。

損金算入を認めないなどの理由で追徴課税された場合に、なぜマスコミでそれが報道されるのかです。

しかも、マスコミは極悪非道なことをしたというニュアンスで伝えます。大抵、申告漏れや所得隠しと言われます。税務に詳しくない一般の方は申告漏れも所得隠しも脱税も区別していませんし、違いもよく分かりません。報道されているくらいだから相当悪いことをしたのだろうという印象を持つでしょう。

解釈によって、損金算入か不算入かのどちらに転んでもおかしくない経費は沢山あります。刑事告発になる脱税ならマスコミへのリークもやむを得ないかもしれません。

しかし、当事者しか知らないはずの損金算入か不算入かという高度な解釈の問題について、なぜマスコミが知っているのか、なぜ所得隠しとして報道されるのかが理解できません。

日本では話題になっていませんでしたが、10年ほど前、日本法人を追徴課税された米国企業が、日本での報道について米国で提訴するという興味深い事案がありました。その訴訟内容が他人ごとなら笑える、一国民としてなら恥ずかしいと言わざるをえないものでした。

合衆国の国税当局の職員が日米同時税務調査の過程で,日本の国税庁の税務官に対し,国税庁が日本の報道機関に違法に情報を漏えいすると知りながら・・・・・・徴税に関する情報を開示したことにより,国税庁の税務官が情報源となって本件報道がされ,・・・・損害を被ったなどと主張して,合衆国を被告として,上記連邦地方裁判所に対し,本件基本事件の訴えを提起した。

日本の国税庁が違法にマスコミに情報を漏洩するような(ひどい)ところだと知りながら、米国の歳入庁は日本の国税に情報を提供した、として米国の歳入庁を訴えたのです。

日米同時税務調査は租税条約に基づいて行われるのですが、その租税条約には当然、情報を漏洩してはならないという規定があります。

一方の締約国が受領した情報は、当該一方の締約国がその法令に基づいて入手した情報と同様に秘密として取り扱うものとし、1に規定する租税の賦課、徴収若しくは管理、これらの租税に関する執行若しくは訴追若しくはこれらの租税に関する不服申立てについての決定に関与する者若しくは当局(裁判所及び行政機関を含む。)又は監督機関に対してのみ、かつ、これらの者若しくは当局又は監督機関がそれぞれの職務を遂行するために必要な範囲でのみ、開示される。これらの者若しくは当局又は監督機関は、当該情報をそれぞれの職務の遂行のためにのみ使用する。これらの者若しくは当局又は監督機関は、当該情報を公開の法廷における審理又は司法上の決定において開示することができる

この条約を破り日本の国税が情報をマスコミに漏洩したというものです。

米国の裁判の過程で、米裁判所は、情報の漏洩元を明らかにするために、日本の報道記者の証言入手を日本の裁判所へ託しました。しかし報道記者は証言を拒絶、そして日本の最高裁は「取材源の秘密」により証言の必要はないと判決を出しました。

国税庁レポートには、「職務上知り得た秘密を守るとともに、綱紀を厳正に保持する」と行動規範が掲げられています。「納税者に対して誠実に対応する。」ともあります。一方でこの判例を見ると、外国企業の間では、「国税庁から報道機関への情報の違法漏えい」は、周知のことのようです。

参考資料 NHK記者証言拒絶事件 許可抗告審