世界経済の先行き不透明感や我が国の金融政策だけの頼りない経済、テロによる平和への不安など、景気の不安材料が絶えることはありません。正社員については、引き続き慎重な採用が行われており、採用活動、転職活動ともに活動期間が長引く傾向が続いています。
転職市場を取り巻く諸環境
米国コンサルティングファームENTERPRISE RISK MANAGEMENT INITIATIVEが世界中の取締役や経営者に対して行った調査によれば、グローバルビジネスを取り巻く環境は、過去2年よりも更にリスクが高まることは明らかと指摘しています。
我が国では現政権や官僚が為替や株式などの金融による景気浮揚策の効果が不透明なるもそれを継続させようとしています。これらは実体のないバブルを作るための策に過ぎません。国際通貨基金(IMF)が2015年7月、日本は金融政策に過剰に依存すべきでないと既に警鐘を鳴らしています。
安倍首相は、2016年12月に行われた民進党の蓮舫代表との党首討論で、毎度のことながら自らの経済政策「アベノミクス」の成果を強調しましたが、内閣府発表月例経済報告は2016年3月以降11月まで9ヶ月連続で「弱さもみられる」と弱含みです(2016年12月月例経済報告では「一部に改善の遅れもみられる」)。日本銀行は、当初の2017年度中2%物価上昇目標達成を早々(2016年11月)に不可能と判断、2018年度”ごろ”へと先送りしました。
気になるのは、いまだに景気を浮揚させるような実体ビジネスの好材料が見えてこないことです。景気をよく見せようとするアベノミクスといわれる政府・官僚の金融政策に頼るのみです。
政府は実体経済の回復基調を後押し、加速させることは出来ても、マイナスに向かう実体経済をプラスに転じさせることはできません。我が国政府が景気を簡単に回復させることができるのであれば、とうにEU諸国の景気は回復しているでしょう。
転職市場
総務省が発表している労働力調査によると、完全失業率は3%と程度と依然として他国と比べ低水準、国内過年度比較でも1995年以来21年ぶりの低水準です。厚生労働省によると2016年11月の有効求人倍率は1.41倍と25年4ヶ月ぶりの高水準です。大局的には雇用状況は良好と言えます。
転職には好条件が揃っているように見えるかもしれませんが、細かく見ていくと手放しでは喜べません。
2016年11月の有効求人倍率(季節調整値)は1.41倍、これは全雇用形態の数値です。正社員の有効求人倍率は0.9倍です。会計事務の職業の有効求人倍率は0.67倍です。
- 正社員の有効求人倍率:0.81倍 2016年2月
- 全雇用形態の有効求人倍率:1.24倍 2015年9月
※季節調整値:毎年季節的な要因で同じように変動する数値の影響を除いたもの(例えば、農林業就業者が春から夏にかけて増加、秋以降減少していくなど)
マスメディアでは一般に、全雇用形態の有効求人倍率のみが報道されます。有効求人倍率が1.41倍、21年ぶりの高水準だからと転職を楽観的に捉える向きがありますが、上の通り正社員の有効求人倍率は到底1倍に足りません。正社員での転職、さらには経理職を考えているなら留意しましょう。
転職市場はリーマン・ショック(2008年)以降の最悪期と比べれば回復しています。それでも転職活動中の方々の実感としてはそれほど改善していません。求人数は増加していますが、募集をしたものの、とりわけ正社員については、いざ採用決定の段になると慎重にならざろを得ないようです。採用が決まらない求人が溜まっている状態です。景気回復に懐疑的な企業も少なくなく、様子を伺っている状況といってよいでしょう。
現在の転職市場の状況は悪いように聞こえますが、我が国の人口減少傾向や将来の年齢構成を考慮すると、もはやこの経済状況が平常であると認識すべきです。かつてのような好景気は今後も訪れるかもしれませんが、それは過去以上に一時的な異常時であるという認識で転職を含む人生設計を立てましょう。
経理の転職市場
【2017年前半の経理転職市場の動向】
経理の求人件数は東日本大震災(2011年)前の水準以上に回復しています。現在は、アベノミクスを諦めない安倍首相への期待感とアベノミクス息切れによる景気後退への恐れのせめぎ合いの状況です。
帝国データバンクが2016年7月に行った人手不足に対する企業の動向調査によれば、企業の37.9%が正社員不足と回答しています。放送、家電・情報機器小売や情報サービス業界で人手不足と回答した企業が6割以上となる一方で、人手不足感のない業界もあり、業種間で正社員過不足感が明らかに異なると指摘しています。
社会全体が人手不足に陥っているような印象を受ける報道がマスメディアでなされていますが、そうではありません。人手不足は、ごく一部の職種・業種に限られるものです。
厚生労働省の発表によれば、会計事務の職業の有効求人倍率は、0.67倍程度です。経理職全体として捉えると“経理”の転職市場は人材不足感はないといえるでしょう。
- 会計事務職の有効求人倍率:0.67倍 2016年11月
- 営業職の有効求人倍率:1.45倍 2016年11月
厚労省0.67倍、紹介会社2.93倍 求人倍率乖離の背景
大手人材会社パーソルキャリアdodaの同社転職求人倍率(2016年12月)は2.93倍で、前年同月比0.10pt減少です。経理職は、求人倍率1.98倍です(他の管理系職種を含む企画・管理系)。
厚生労働省の求人倍率は、公共職業安定所(ハローワーク)における求人、求職、就職数から算出されたものです。広く様々な企業・団体・個人事業主が公共職業安定所を通じて求人を行っています。但し一般に、求人数は、中小零細企業>大企業の傾向にあると推察されます。紹介会社(doda)の求人倍率は、dodaが取り扱う求人・求職(登録)者の数から算出されたものです。一般的に求人数は、大企業>中小零細企業の傾向にあると推察されます。紹介会社が取り扱う経理求人には次のような点から回転率が悪い(募集期間が長い)傾向にあります。
- 職務内容がニッチすぎる(連結決算や国際・海外税務、英語力など)
- 選考プロセスが多い(面接回数や筆記試験など)
- 中長期的視点から人員を補充しておきたい(採用を急いでいない)
- 人員予算を獲得できてしまった(ダメ元で人員計画に増員を盛り込んだら承認された=深刻ではない)
上の中でも紹介会社経理求人の募集期間が長くなる最大の原因は、職務内容がニッチすぎることです。例えば、連結決算業務で見ても、上場企業が約3,500社、日本全体の企業数が4,210,000と、上場企業は企業全体の僅か0.08%です。上場企業全てに相応の連結決算業務が必要なわけではありませんので、連結決算業務経験者の割合はもっと低くなるでしょう。1万社に10社もありません(上場企業以外で連結決算が必要な企業は少数のため考慮せず)。海外国における税務問題に直面している企業は日本全体では一層少なくなります。そう簡単に要件を満たす候補者が見つかるわけがありません。形式要件を満たしている候補者が見つかったとしても、もちろん即採用というわけではありません。当然、募集期間が長くなります。そのような求人が積もり滞留、求人数を押し上げ、求人倍率が公共職業安定所(ハローワーク)に比べ高くなります。
経理職の転職市場は他職種に比べ、景気悪化時に受ける影響が大きいとの情報もあります。期待感と不安感のせめぎ合いのバランスが崩れ、悪い方に本格的に傾いたとき、経理の転職市場は急激に冷え込む恐れもありますので注意が必要です。状況は横ばいを維持することはあれ好転することはなさそうです。
1.上場企業の経理求人動向
a.) 大規模企業
引き続き募集は、一部の大企業による優秀な人材の増強を図るための求人に限られてくるでしょう。欠員補充を目的としたものが少なく、現状の社員以上の力を発揮し得る方がいれば採用も検討するといったスタンスが見られます。したがって、選考は非常に厳しいのが実状です。
b.) 中小規模企業
開示情報作成等の業務増大・業務過多による増員や補充を目的とする求人が継続するでしょう。恒常的な要員不足に悩む企業が多く、即戦力となる上場企業での開示関係業務を含む主計経理経験者を求めていることが多い。ただし、2011年6月の金融担当大臣談話によりIFRS強制適用が事実上延期になっていることからIFRS導入に向けた経理部門の切迫感は減少しています。上場企業の選考は依然として厳しいです。
2.非上場企業の経理求人動向
経理の人員が5名程度以下の企業で欠員があった場合には、補充の求人が出されています。但し、この景況下では欠員があまり出ないため、欠員募集も少ない状況です。経理人員が比較的多い企業では、欠員が出ても補充を行わず様子を見ている企業も見られます。いずれにせよ、依然として選考が厳しいように感じられます。増員の経理求人は若干ながらも出つつあります。上場を目指す企業の経理求人は足踏みの状態が続くでしょう。2016年の新規上場社数は83社と2015年に比べ減少となりました。かつての好況期に比べると減少しています(2006年:188社)。
上場企業の求める経理人材
開示業務等の増加やIFRS導入準備のための人員不足感による求人が継続しています。
ただし、IFRS導入プロジェクトは多国展開する国際企業を除き多くの企業で一時中断もしくはスローダウンしています。
IFRS導入は思っているほど進んでいません。報道は、IFRSを推進している組織や企業(コンサル等)が行うプレスリリースをもとに行われます。必然、多くの企業が導入済であるかのような印象を受けさせる報道がなされます。しかし、導入割合で見ると、そうでもないことが分かります。
東京証券取引所のIFRS任意適用・任意適用予定会社一覧によれば、任意適用会社数は101社(2016年12月現在)で、東証の上場企業全体の僅か2.9%にすぎません。
民主党政権下2011年6月の金融担当大臣談話によりIFRS強制適用が事実上延期、その後自民党政権に戻り再びIFRS導入促進の方針が打ち出されるも遅々として進んでいないことがうかがえます。
実際の採用現場では、年齢に応じた経験を求められるのが一般的で、20歳代の若年層に対してポテンシャル採用を進める一方、30歳前後以上の年齢層に対しては、有価証券報告書や決算短信の作成など開示業務の経験を必須とする傾向が強いでしょう。
また、製造業での海外生産拠点の増加や、最近ではIT関連企業をはじめとする新興企業の海外進出、持株会社制導入の増加などを背景に、連結決算経験を持つ人材を求める企業が増えています。同時に、海外子会社の増加に従って、ビジネスレベルの英語力を持つ人材が歓迎される傾向もあります。
非上場企業での経理・決算業務が税法への準拠を目的とすることが多いのに対し、上場企業ではディスクロージャーを目的とした業務も加わります。
ひと口に上場企業といっても、伝統的な大手企業と新興(または中規模)企業では任される職務内容も学べるスキルも異なります。「10年後どのようなタイプの企業で活躍していたいか」を念頭に、中長期的視野に立った企業選びが重要です。
上場準備企業が求める経理人材
さまざまな局面において、早いスピードでの変革が求められるのが上場準備企業です。
もっとも歓迎されるのは、上場準備業務に最後まで携わり上場を経験した人材ですが、上場準備企業のうち、実際に上場を実現するのは1%程度にすぎないとも言われています。そうした現実を踏まえ、多くの場合で上場準備企業が求めるのは、上場の経験がなくとも、仕訳から月次年次決算までの実務経験と日商簿記2級程度の基本的知識がある人材です。人物面では、実務のリーダー格として活躍のできる人柄、素養が重視されています。
上場準備企業では、多くの場合、経理・財務部門の体制がまだ発展途上にあります。上場の目標スケジュールに合わせて、問題点を洗い出し、改革を推し進めるためには、ルーチンの経理業務をこなすだけでなく、経理部門全体の仕事のやり方を見直していかなければなりません。
単に仕訳入力から決算までを仕上げるだけでなく、業務フローの問題を発見して、適正な経理処理や業務の効率化を図れる能力が求められます。そのため、選考では、経験だけでなく、しっかりとした経理の基礎を有しているかやリーダーシップ力の有無も重視されます。
上場準備企業では、経理・財務部門の仕組みづくりから参画できるチャンスとやりがいが大きな特色であり、醍醐味であるといえるでしょう。
中堅企業が求める経理人材
多数の関係者・関係部署が稟議を行なう大企業に比べ、中堅企業では、経理・財務部門の責任者が経営に直接的な影響力を持つことも少なくありません。将来的に経理財務の責任者として会社の資産を預け、業務全般を安心して任せられる人材を求めて、人間性重視の採用を行うことが多いようです。その上で、一連の経理業務をひとりで処理できるだけの実務経験が求められます。
選考では、経理の基本的な知識の指標として、日商簿記2級以上を応募要件とするケースが多く見られます。仕訳入力などの現場レベルでの経理事務ができる人材は多いものの、リーダーシップを発揮し、月次・年次決算のすべてにわたって取りまとめられる人材が不足しがちな現状があります。
さらに中小規模の企業では、大企業のように経営企画や業績管理を行う専門部署がないことが多く、予算や業績を管理、分析、レポーティングもできる人材は付加価値が高いと評価されるようです。
より経営に近いポジションで、経理・財務全般にわたって経験を深められるのが中堅企業の魅力といえます。企業によっては「経理担当」と限定せず、人事や総務を含めた管理業務全体を任せるケースもあります。広い裁量の幅を持って会社運営の一翼を担い、その企業に欠かせない存在としてやりがいのある仕事に取り組むことができます。
他人材会社による市場分析
最後に他の人材会社の転職市場レポートのリンクを下記します。様々なところから情報を収集し、分析、最終的には自分で判断する、それが後悔しないための転職活動です。