国税庁はホームページで「移転価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし」を公開しました。OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト勧告を踏まえて平成28年度に改正された移転価格税制に係る文書化制度の概要が紹介されています。
文書化制度の充実は、納税企業にとって事務負担が増大する一方で、理不尽なお手盛り課税リスクを予防できるメリットがあるのではないでしょうか。我が国の場合、海外関連者への支払について、調査課税の現場では企業が移転価格税税制の観点から議論しようとしても、調査側にとって手続きが容易で議論や分析が不要な寄附金認定による追徴課税がなかば強引に行われるケースもあると聞きます。
海外関連者との取引を予め文書化制度にしたがって文書化すれば、文書化した取引については本来の移転価格税制の中で(少なくとも最初は)議論ができ、理不尽な寄附金課税のリスクを減少させることができそうです。
ただし、文書化は一定規模以上が対象ですので、依然として税務調査所管が局ではなく署である(大企業よりも追徴課税によるインパクトが大きい)中堅企業には寄附金課税が大きなリスクとして残るかもしれません。
移転価格税制と寄附金課税について問題点を知りたい方は、税務大学校論叢(ろんそう)に下のような論文があります。
『移転価格税制』が執行されてみると、現実の経済取引の中に、『移転価格税制』を適用すべき取引であるか、あるいは『寄附金』課税を適用すべき取引であるかが不明確なケースが散見されるようになった。これは、日本独特の『寄附金』概念の存在に加え、日本と諸外国の『移転価格税制』の相違点に起因するものと思われる。
我が国は人口減少傾向にあることから国際的日本企業の国内取引や輸出輸入取引は今後一層減少していくことが予想されます。従前のモノの輸出入価格に係る移転価格の問題も減少していくことでしょう。当局側から見ればモノの売買から税を徴収てきなくなるということです。輸出入取引が減少し、(日本を介さない)海外取引が増大します。海外取引に間接的に関連しているであろう無形資産を見いだし、日本の税を徴収せざろを得ません。技術(研究や製造に関するものだけでなく本社の管理手法や企画力も?単なるサービス提供なのか高付加価値無形資産の譲渡なのか)やブランドのような無形資産の海外への移転価格の問題が増大していきます。日本経済団体連合会が下の提言の中で指摘しているように無形資産に関する移転価格税制運用上の課税透明化が求められます。
所得相応性基準は、いかに独立企業原則の枠内と整理したところで、依然として後知恵課税との疑念は拭えない。このため、適用の場面を極力限定するとともに、精緻な実施ガイダンスを策定することが不可欠である。