税務担当にとって税務調査で最もおそろしい実質課税。

実質課税とは、一般に名義・形式や契約によらないで実質・実態に則して課税関係を考えようとする原則であるといわれています。行政は、そのときどきや相手が誰か(どの企業か)によって許認可等の行政の扱い、税務であれば調査での認否が変わることがあります。もちろん建前上はそのようなことがあってはなりませんが、人である以上、現実的には相手によって結果が異なることがあるでしょう。

そのなかでも税務調査は、お手盛り行政の最たる分野ではないでしょうか。税務調査は行政業務の中で行政の裁量部分が非常に大きい分野の一つでしょう。極端に言えば、実質課税を持ちだしてしまえば、かなり強引な課税もまかり通ってしまう可能税あります。

少し前、2016年2月の話しになりますが、ヤフーが組織再編に係る課税更正処分の取消しを求めていた訴訟で、ヤフーの敗訴が確定しました。国税相手に5年半にわたり係争してきたヤフーの姿勢に尊敬の念をいだきます。

「組織再編税制の趣旨・目的」がどのようなものであるかという点や、どのような要素をもとに「組織再編税制の趣旨・目的」にかなったものであるかを判断するのかという点について判断が一審と二審で異なると同社はホームページで指摘しています。

裁判の過程で、組織再編税制の趣旨・目的の判断が変わる、すなわち、実質課税の判断がいかに難しいものであるかの証左です。

更には「組織再編税制の趣旨・目的」に合致していないという理由の根拠とされた法人税法の条項さえも、税務調査による更正処分時には示されず、裁判の過程で初めて示されたとのこと。当然、税務調査更生時に何に基いて追徴課税されるのか問い質したのでしょう。それに管轄署は答えられなかった。裁判で所管省庁が課税するための理屈を考えた。根拠も示さずに課税など信じられません。現代とは思えない課税手法です。納税者から申告された売上額に税務署が売上を勝手に上乗せし、勝手に税額を決めていた戦前の手法と大差ありません。

裁判と言っても、裁判官は税法の専門家ではありません。結局は所管庁や所管庁OBに意見やアドバイスを求めると聞いたことがあります。当然、行政に有利なアドバイスを行うでしょう。そのような事情があれば、余程のことがない限り行政の行ったことが誤りであるとして覆ることはありません。余程のこととは、世論の盛り上がりや裁判官よりも上位な集団や人物からの下達がなければ覆らない。こと税務分野となれば、一般にマスコミが大々的に取り上げることなどありませんので世論の盛り上がりは期待できません。となれば、税務分野での訴訟においては調査による追徴課税を覆すことは一層困難であるということです。行政のプライドが傷つけられるようなこと、例えば課税が誤りであることなど、行政がもっとも嫌うことです。行政が一度上げた拳を下ろさない恐ろしさがここにあります。

今回の一連の裁判においては、第一審、第二審ともに、裁判所はYahoo! JAPANの行った税務処理が「組織再編税制の趣旨・目的」に合致しておらず、不当なものであるという税務署の結論自体は追認しています。しかし、「組織再編税制の趣旨・目的」がどのようなものであるかという点や、どういう要素をもとに「組織再編税制の趣旨・目的」にかなったものであるかどうかを判断するのかという点についての判断は一致していません。また、「組織再編税制の趣旨・目的」に合致していないという理由の根拠とされた法人税法の条項さも「組織再編税制の趣旨・目的」に合致していない場合には不当な税務処理であると判断されるということも、処分が行われた時には示されておらず、裁判手続きのなかでようやく明らかになったものです。

5年半にわたりYahoo! JAPANが行ってきた一連の税務訴訟は終了しました。大変残念なことに、Yahoo! JAPANの主張が認められませんでした。

今回の裁判で問題となった組織再編税制に係る法人税法の条項については、確たる解釈や先例がないこともあり、本件の争点は多岐にわたりました。
しかし、Yahoo! JAPANが一貫して主張してきたのは、税制は透明性を持つべきであり、その解釈適用は予測可能性を備えるべきである、という当然のことです。

税務調査官が納税者に非公開の虎の巻にもとづいて課税を行うなどもってのほかではないでしょうか。そのような情報は予め公開、広く周知しておくべきです。

税法における実質主義について 税務大学校教授による考察です。経理職なら実質課税についてこの機会に理解を深めておきましょう。